重粒子線治療と歯科治療|元町歯科診療所のコラム

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コラム

重粒子線治療と歯科治療

重粒子線治療と歯科治療

重粒子線治療について

重粒子線は高LET(linear energy transfer)放射線ともよばれ,高いRBE(relative biological effect;X線に対する相対的な生物学的効果)を示し,

①酸素による照射効果の影響を受けにくく,低酸素細胞(X線抵抗性の原因と考えられている) に対しても有効であること

②細胞周期による放射線感受性の影響を受けにくいこと

③照射後癌細胞の放射線損傷からの回復が少なく,分割照射の影響が小さいこと,などが明らかにされています.

さらには以下のような特徴があります.


Bragg peak*

X線は人体を透過するのに対し,重粒子線は人体の任意の深さで止めることが可能である.

重粒子線は,入射部ではあまりエネルギーを与えずに体内を通過し,飛程の終わり付近で急激に停止して,周囲組織に多くのエネルギーを与えるBragg peakという線量のピークを作る特徴をもつ.

標的より深部の正常組織への線量は低く抑えることが可能で,有害事象を減らすことができる. 


 

九州では2013年開設の佐賀HIMATが唯一の重粒子線治療施設で,西日本では佐賀HIMAT以外に大阪と兵庫のそれぞれ1施設が稼働しています.

頭頸部がんの重粒子線治療の成績はスライドのとおりで,従来の放射線治療では治療抵抗性であった腺様嚢胞癌が粘表皮癌のような腫瘍で高い治療成績が得られており,保険治療の適応となっています.

ただし,頭頸部がんの放射線治療の前には口腔内の金属撤去や要抜去歯の抜歯が必要とされています.

日本放射線腫瘍学会の放射線治療計画ガイドライン2020には以下のように記載がされています.

 

口腔が照射野に含まれる場合,晩期顎骨障害予防目的に治療前に歯科に紹介し,う歯や歯周病があるときには治療を行う.また口腔合併症の予防,軽減を目的に治療中の口腔ケアを推奨する.

金属冠やインプラントが装着されている場合,CT画像のアーチファクトによる影響や金属物からの散乱線で口腔内粘膜炎を惹起することが懸念される.これらの影響をさけるため,金属の撤去,スペーサー挿入による散乱線の防御,計画画像上の金属部分の水密度への変換,治療ビーム報告調整等で影響を回避する検討が推奨される.

粒子線治療では治療前に飛程内の金属除去が必須である.X線治療に関しても金属アーチファクトによるGTV評価困難や散乱線による粘膜炎増悪のリスクもあり,可能な範囲で金属除去をおこなうことが望ましい,しかし,腫瘍の中に歯牙のあるケースや開口障害など金属除去困難なケースもある.

治療前後を通しての口腔ケアにより合併症の発生軽減が期待できる.要抜去歯の抜歯は照射開始前の2週間以上前が望ましい.高線量照射部位に含まれる歯の照射後の抜歯は望ましくないとされる.

口腔が照射野に含まれる場合,晩期の顎骨障害を予防する目的で治療前に歯科受診し,う歯や歯周病があるときには治療をおこなう.また,口腔合併症の予防,軽減を目的に治療中の口腔ケアを推奨する.

 

がん患者さんの場合は治療開始までの猶予期間が少なく,口腔ケアや抜歯,金属除去を短期間で対応しないといけないことが多々あります.歯科処置にともなうがん治療開始の遅れはそのまま生命予後に直結しますので,日頃からかかりつけ歯科でのメンテナンスをおこなって,いざというときの対応がスムーズにいくように心がけてください.